前回の記事で魔女狩りで理不尽ともいえる裁きについて書かせていただきました。残酷な裁判や処罰が行われる際、そのバイブルになった一冊の本がありました。その本こそ『魔女の槌』です。この本は一人の聖職者による思い込みから書かれたものです。今日はその『魔女の槌』の話を中心にして魔女裁判のひどさを取り上げます。時代は15世紀のおわり、1480年代にさかのぼります。まだ魔女狩りが盛んになる前の時代です。

1 『魔女への鉄槌』出版
1484年に教皇になったイノケンティウス8世はキリスト教社会の平和を回復すべく、異端派に対して厳しい態度をとりました。いわゆる異端審問(’※1)です。カトリックの教えに反したor反したと思われる人物を裁判にかけて糾弾をしたのです。いわば、カトリック内部の裏切り者を見つけだそうとしたのですね。

そんな時代に恐るべき本が出版されました。その名も『魔女への鉄槌』

『魔女への鉄槌』が出版されたのは1486年。書いた人は、異端尋問官いたんじんもんかんだったハインリッヒ・クラーマーとシュプレンガーの二人。

もっとも最近の研究では、この本をほとんど書いたのがクラ―マーで、シュプレンガーはほとんどタッチしていないとのことです。


2 クラ―マーの人となり

クラ―マーとはどのような人物だったのでしょうか。クラ―マーは異端審問官としては非常に職務に熱心で、イノシカチョウじゃなかったwイノケンティウス8世の信頼を受けていました。1485年、クレーマーじゃなかったwクラ―マーがオーストリアのある町に訪れるなり、通常と異なる異端審問を開始しました。

なんと50人の女性を魔女の疑いをかけて逮捕したのです。裁判も証人もつけず、一方的な尋問をおこなったそうです。この時代は意外にも魔女は悪魔のしもべという発想がなかった時代です。それにも関わらずクラ―マーは「魔女術は重大な犯罪」だと思っていたのです。クラ―マーは妄想をする人物で「この世の終わりが来る前は悪魔の力が特につよくなる」と信じていたそうです。だからこそ、強くなった悪魔が女性たちを誘惑し、魔女になる契約をしていると思っていたのです。

その魔女になる契約とは、サバトと呼ばれる集まりで行われたといわれております。夜中に女性と悪魔たちがあつまり、女性と悪魔が語らいをしたり、Hなことをして、女性が悪魔になる契約をするというもの。そうして悪魔と契約をした女性が魔女になるのです。

クラ―マーは女性たちに対して「あなたは悪魔と性的な行為で契約したはずだ!」としつこく尋問したそうです。そんなクラ―マーの態度をみかねた地元も弁護士たちが「人間が悪魔と性的行為をして魔女になる契約をしたなんて、何を迷信みたいなことを言っている!そんなの異端審問と関係ないでしょう」と反論したそうです。そしてクラ―マーは裁判に破れ、女性たちも釈放されたそうです。当然ですよね。

その裁判で負けたことのくやしさと、魔女への憎しみから、書き上げた本というのが『魔女への鉄槌』というわけです。


3 『魔女への鉄槌』にはどんな事が書かれているか 
 その『魔女への鉄槌』にはどんな事が書かれているのでしょうか。僕はこの本を読んだ事がないのですが、「魔女とは何か」「悪魔との関係」「魔女がもたらす災い」「魔女との戦い方」「魔女裁判の仕方」などが書かれているそうです。魔女についての知識が250ページ以上にもわたって書かれているそうです。

この本には、魔女を摘発するポイントや容疑のかけ方、尋問、それから拷問ごうもんの内容や方法も書かれています。その魔女を摘発するポイントというのが「魔女を摘発てきはつするにはウワサでよい」というもの。たとえ、犯罪者による証言やウワサであっても、魔女と対抗するならやむを得ないというもの。恐ろしい・・・

「私は魔女だ」と自白を引き出し、その後の処理法としては以下のとおりです。

  1. 水とパンだけを与えて、被告が死ぬまで牢獄(ろうごく)に監禁しておく。

  2. 当分の間は処刑せずに監禁しておき、その後で処刑する。

  3. 担当裁判官を交代させ、交代した裁判官が死刑の判決をする。


ひどいですねえ・・・

4 女性をバカにしている『魔女への鉄槌』
さらに『魔に与える鉄槌』には女性嫌悪と思われるような内容も書かれているそうです。

オンナの怒り以上に激しい怒りはない。私は邪悪なオンナと一緒に家庭を営むよりは、ライオンとドラゴンと一緒に住みたい」と。

「女性は迷信深く、それゆえ魔女の資質に恵まれている」
「女性は生まれつき感受性が強い」
「女は口が軽い」
「しかし、(女が魔女になる)もっともな理由は、女が男より肉体を好む」


「わかるなあ、その気持ち」だなんて、くれぐれも言わないでくださいねw、男性諸君w
ヒドイ女性差別だとこと。実は、著者のクラ―マーが女性に対して偏見を持っていました。クラ―マーは聖職者で、禁欲的な生活を送っておりました。昔の聖職者は恋愛がタブーでしたからね。しかし、クラ―マーも男。心の中に女性のこと、特に女性の肉体がモンモンと浮かんでくるのです。人間というものは不思議なもので何かを禁止されたとき、むしろ要求に目が向くんですね。

今だから言いますが、コロナの自粛期間のとき、僕はカラオケに行きたい気持ちがいつもよりすげー高まりましたもの。自粛が解除された途端にカラオケ行きまくりましたよ。ヒトカラでしたが。おっと、ごめんちゃいw自粛警察さん、怒らないでね。

ともかく、クラ―マーはわいてくる性欲を悪魔の誘惑と受け取ったのですね。

あるいは、これは僕の憶測なので聞き流してほしいのですが、クラ―マーは聖職者にも関わらず、女を口説いたのかも。ゲームの『ファイアーエムブレム』にもそういうキャラ出てくるんですよwそれで女から「神様にお仕えする身でありながら何やってるんですか!」ってフラれたものだから、その腹いせから『魔女への鉄槌』を書いたのかもw?

ともあれ、この本のひどいところは女性が悪魔に取りつかれやすい危険な存在だと断定されていることです。

5 後の世になってバイブルとなった
 この『魔女への鉄槌』は3万部という、当時としては破格のベストセラーとなりました。が、かといってこの本がきっかけで魔女狩りが、すぐさま始まったのではありません。当時の教会やエリート層は「魔女が夜な夜なサバトを開き悪魔と契約しているなんて、そんな迷信信じちゃダメだ」という態度でしたから。

また、この本を駄本だと思う人も少なくありませんでした。まさに、アマゾンの評価が真っ二つに割れるような本でした。(星の数が低評価の1と高評価の5がやたら多く、中間があまりない。)


しかし、この本に書かれた魔女への恐ろしさ、女性への偏見というものが、徐々にヨーロッパの人々に浸透してきたのですね。魔女のような神に逆らう連中が徒党をなしているとうイメージが徐々に芽生えていったのですね。それからだんだん実態とは異なる魔女像がだんだんできていきました。

この本が出版から100年後の16世紀のおわり、苛烈な魔女狩りがはじまりましたが、その時のバイブルとなったのが『魔女の鉄槌』というわけです。裁判官だけでなく一般の人々でも、この本を読んで魔女を糾弾できるようになったのです。出版当初よりも後世の人たちに強い影響を与えた本なのですね。

この本が注目されるようになったのは16世紀後半の社会背景が大きいです。

16世紀にヨーロッパ全土で飢饉や疫病が広まり、人々は不安になりました。16世紀くらいから小氷期と呼ばれる寒冷な期間が続き、凶作によって特に農村部では深刻な危機に陥りました。そこへ疫病が流行ったのですから、大変です。さらに悪いことに宗教改革(※2)以降、30年戦争、フロンドの乱といった新教と旧教による争いも頻発したのですね。人々は、それを「俺たちがかんばっているのに、ひどいことばかり起こるのは魔女のせいだ!」と思うようになったのです。そうして魔女狩りはひどくなっていったのですね。

社会が不安になると、特定の人物(あるいは集団)がターゲットにされて糾弾されるのは日本でも同じこと。バブルが崩壊し、震災やら派遣切りやらコロナやらで社会が不安になると、ヘイトやら自粛警察やらがあらわれるのですね・・・



オマケ

 先程も申し上げましたが、サバトとは、悪魔の儀式の事で、魔女がそのサバトで悪魔と語らいをしたり、セ〇〇スもしたといわれています。

しかし、実際にサバトをみたって人はいませんでした。にもかかわらず、当時の人たちは魔女はサバトに参加し悪巧みをしていると信じられていたのです・・・

http://www.youtube.com/watch?v=Yg-mEJVcodw&feature=player_embedded#!
(↑「サバトの夜の夢」 映らなかったらごめんなさい。)





※1 カトリック教会が正統と認める教義から逸脱した教えを「異端」として宗教裁判で裁くこと

※2 カトリックの堕落を批判し、新にプロテスタントという宗派がうまれた。カトリックを旧教、プロテスタントを新教とよび、しばし両者は対立した。プロテスタントの中心人物はルター。ちなみに、ルターは魔術について「こうしたことは悪魔の幻覚であり、真実ではない」と魔術には否定的でだった。。しかし、ルターは魔女については「こうした類の女ども(魔女)に同情心は沸かない。律法に従って、私は自分自身で彼女達すべてを火刑にするつもりだ。」と恐ろしい事をいっている。




参考文献



週刊歴史のミステリー No.2 (2008/2/12号)


図説 魔女狩り (ふくろうの本/世界の歴史)