1 一生忘れらない三大ロマンス
 きょうはテレサさんのロマンスからお話しします。テレサさんは3名の男性とロマンスがありました。一人は、青年実業家、二人目は華僑の学生、そして三人目が財閥の御曹司(シンガポール華人)でした。とくに財閥の御曹司とは結婚まで考え、シンガポールに家を買ったほど。けれど、御曹司の家族が男尊女卑だったことと、歌手をやめろと言われたこともあり破談になりました。

破談はテレサさんに深い悲しみを与えました。しかし、失うものがあれば得るものはある。こうした悲しい経験は、テレサさんの歌手人生においてはプラスに働くのですね・・・あまり、こんなことは思いたくないのですが。でも、たしかにテレサさんの歌はこういう経験がないと歌えないと思います。技術的にはテレサさんの歌をうまく歌うことができても、それだけ。テレサさんが歌うと泣けるけれど、ほかの人が歌うと「うまいね」で終わってしまうことも少なくありません。

でも、テレサさんに限らず大歌手はプライベートではつらい経験をした人が多いのですね。島倉千代子さんなんて、不幸不幸の連続だったし、宇多田ヒカルさんもお母様をなくされたり、色々つらい経験をされ、それを乗り越えた今のほうが(若い時より)僕は好きですね。もちろん、プライベートも大変充実した歌手の方ももたくさんいらっしゃることも言うまでもありません。

2 荒木&三木コンビ
 失意の中テレサさんは三木たかしさん、荒木とよひささんに出会います。このお二人との出会いがテレサさんの歌手人生を大きく変えます。1984年1月に「つぐない」がリリースされます。作詞が荒木とよひささん、作曲が三木たかしさんです。しかし、発売して一週間で売れたのはたったの10枚。五週間たってもわずか50枚だけ。この曲がリリースされて1か月にテレサさんは再来日します。テレサさんが日本にきたのはパスポート事件以来5年ぶりです。(「つぐない」のレコードは日本ではなくシンガポールのスタジオで収録されたのですね。)

テレサさんは日本に来るなり、パスポート事件のことを謝罪し、会見がおわったところでミニライブが開かれ、「つぐない」が披露されました。それから「つぐない」が有線放送でどんどん順位をあげ、大ヒットにつながります。そして、この曲は有線大賞を受賞します。

そして翌年の1985年は荒木、三木のコンビで「愛人」が大ヒット。前年に続き有線大賞を受賞。そして、テレサさんはこの曲で紅白に初出場。まるで楊貴妃のような衣装でこの「愛人」を歌いあげました。 

しかし、テレサさんはこの「愛人」の歌詞にはじめは納得しなかったようです。「どうして私がこんな歌を歌わなければいけないんですか。悪いことをそそのかす女のひとの歌」とテレサさんはおっしゃったそうです。それもそのはず「愛人」は不倫がテーマの曲ですからね。しかし、仕事だから歌わないわけにはいけない。テレサさんは中国語で意味する「愛する人」について歌うのだと自分を納得させ、純粋な気持ちで歌うことにしました。歌詞に不満があったけれど、語尾に気持ちを表現することで切なさを伝える独特な歌唱法は、ここでも優れた冴えを見せました。

1986年には「時の流れに身をまかせ」をリリース。やはり荒木、三木コンビによる名曲です。この曲で3年連続有線大賞受賞、レコード大賞も受賞、この年の紅白にも出場されました。「時の流れ」は徳永英明さんら色々な方がカヴァーされており、今でもカラオケで上位に上がるほどの素晴らしい曲です。

翌年の1987年には「別れの予感」が大ヒット。しかし、この年の紅白は落選してしまうのですね。この年の紅白はオペラだとかシャンソンだとか、そういう歌手を出す一方で、流行歌手や人気歌手の何人かがあおりを食ったのです。テレサさんが紅白に再出場したのが1991年です。この年には「時の流れに身をまかせ」を歌いました。しかし、それ以降テレサさんは紅白に出ておりません。テレサさんは生涯三回しか紅白に出場しておりません。なぜでしょう?「長い時間拘束されるのが嫌」とか「演歌歌手と共演するのが嫌だ」「ギャラが安すぎ」みたいな理由で辞退したからではありません。むしろ、彼女は紅白に出たかったそうです。しかし、様々な事情があって紅白に出ることはかならず、1995年に亡くなってしまうのです。本当に惜しいなあ。

さて、テレサさんが日本についてこうおっしゃっていたそうです。

日本人は本当にあったかくて嬉しかった。歌は愛です。私の歌で一人でも日本の人の心が優しい気持ちになれば、それが本当に嬉しい。

1986年にテレサ・テンさんが1986年の紅白にご出場された時、当時の司会者がテレサさんの言葉を曲紹介の時に語ってくれたもの。日本では辛いこともあったが、それでもテレサを温かく支えてくれた日本人も少なくなかった。だからこそ言えた言葉なのです。

3 香港という曲
 それからテレサ・テンさんの歌で「香港」という歌があります。この曲も荒木・三木コンビの歌です。1989年につくられた曲で、エキゾチックな曲調の歌です。この曲は個人的に大好きな曲です。イントロと間奏の二胡の音色とテレサさんのどこか悲しげなボーカルが印象的。

1989年といえば中国に香港が返還されることが決まった年です(実際に返還されたのが1997年)。

その香港返還を記念して作られた曲らしいのです。この年に放映された日本の歌謡番組にテレサさんは香港からの中継でご出演されました。1989年当時のテレサさんは香港を拠点にしておりました。そして、「香港」を歌ったのですが、歌っている最中に泣き出してしまうのです。彼女はなぜ泣いたのでしょう?


それは本人に聞いてみないとわかりません。けれど、彼女が泣いたのは1989年6月4日におきた天安門事件と何らかの関係がありそうです。その辺のお話はまた次回。



※ 参考文献


これならわかる台湾の歴史Q&A
三橋 広夫
大月書店
2012-05-01