本日で疫病のお話はいったん終わります。まだまだコロナが終息しそうにもありませんが、一刻も早い終息を祈りつつ、皆さまの幸せをこころよりお祈りします。それでは本題にはいります。



1 光明皇后

 奈良時代は天然痘てんねんとうが流行っておりましたが、聖武天皇しょうむてんのう皇后こうごうだった光明皇后こうみょうこうごうについて。彼女は仏教を熱心に信仰していて、東大寺および国分寺の設立を夫の聖武天皇に進言したと伝えられています。

また救貧施設きゅうひんしせつの「悲田院ひでんいん」、医療施設である「施薬院せやくいん」を設置して、病人や孤児の保護や治療を行ったといいます。また諸国から献上けんじょうさせた薬草を無料で貧しい人たちに与えたともいわれております。

光明皇后といえば、こんな言い伝えもあります。施薬院にて千人のアカを洗い落とすことを発願ほつがんした皇后がその通りに人々を世話していたところ、最後の千人目に重症のハンセン病患者が現れ、皇后にウミを口で吸い出すよう要望し、彼女がその通りにすると、病人は正体を現し阿閦如来あしゅくにょらいとなったというもの。その千人目が本当に如来様だったかどうかはわかりませんが、皇后がそれくらい優しい方だったということでしょう。

皇后の姿勢を見ていると、中国の作家・方方さんが書かれた『武漢日記』の一説が浮かびます。


「一つの国が、文明的であるかどうかの尺度は、高層ビルや、車の多さや、強大な武器や、軍隊や(中略)世界各地で豪遊する旅行客の数ではない。唯一の尺度は弱者にどう接するか。その態度である」


本当にそうだなって。

2 医師だった後藤新平
次は台湾総督府たいわんそうとくふの民政長官をつとめた後藤新平について。彼は医者だったこともあり、台湾の衛生えいせい問題に取り組み、当時台湾で流行っていたコレラの対策にもずいぶん取り組んだといいます。

予防接種よぼうせっしゅを義務化し、上下水道を整えるなど、衛生状況をよくすることで、伝染病の予防に寄与しました。また、後藤は教育の充実を図り、医学校の創設そうせつも行い医療レベルを飛躍的に向上させたといいます。

昨年亡くなられた李登輝氏が後藤新平から学んだことは、「人民が何を欲しているか」です。後藤は医者だったからこそ、生物学的に人民が何を欲しているかを知ろうとし、そのためには何をすべきかを考え、必要に応じて自分で法律を作ったりしたといいます。


3 五味淵の挑戦
 スペイン風邪が流行ったとき、都市部も大変でしたが、地方はもっと大変でした。昔は無医村なんてザラでしたし。栃木県矢板とちぎけんやいた町(現・矢板市)の開業医、五味淵伊次郎ごみぶちいじろうは十数キロ離れた村々を自転車で往診おうしんしたといいます。患者のもとにかけつけても、五味淵が来た時には患者が亡くなっていたというケースも少なくなかったといいます。

そして、五味淵の家で働いていた15歳の少女も感染し、危篤状態きとくじょうたいにおちいってしまいます。五味淵はスペイン風邪とジフテリアの症状が似ているということで、いちかばちかジフテリアの血清療法けっせいりょうほうを試そうとしました。ジフテリアの血清療法とはジフテリア毒素を投与した動物から免疫物質めんえきぶっしつ抽出ちゅうしつし、それを治療に用いることです。しかし、五味淵はためらいます。「動物実験のような注射を人の子供にうつことなどできない」と。しかし、翌朝、少女はそのまま息を引き取ります。五味淵は注射を打たなかったことを激しく悔やみます。

五味淵の妹も感染します。血痰けったんをはき、呼吸困難にまでおちいったというから、相当重症です。五味淵は妹を救いたいと、ジフテリアの血清を注射。すると、妹の症状も次第に落ち着いたといいます。その妹の様態を事細かに記録し、その記録あを全国の医師たちにも役立ててほしいと五味淵は書き留めたのです。五味淵は自らも血清をうち、効果をその確認したといいます。

それから五味淵は矢板の人たちに数回もジフテリア血清を注射。しかし、ジフテリアの注射は現在の価値で3〜5万円もします。その費用を貧しい農民たちは支払うことができたのであろうか?できません。ワクチンの無料クーポンなどない時代です。それで農民たちはどうしたか。野菜とか米だとかそういったものと交換したそうです。五味淵自身も赤字も承知で患者を救おうとしたのです。まったく「医は算術」の+医師会のお偉いさんも見習ってほしいものですなw

そして、大正8年(1919)3月、スペイン風邪第一波が終息します。



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(予防ポスター。ウィキペディアより)


※ この記事は「英雄たちの決断」を参考にして書きました。


武漢日記 封鎖下60日の魂の記録
方方
河出書房新社
2020-09-08