前回の記事で大和の中は快適だったと書きましたが、もちろん、良いことづくめではなく、ツラいこともたくさんあったのです。毎日生きるか死ぬかの不安な気持ちになるのもそうですし、厳しい訓練もそうなのですが、なんと言っても上官や古参兵コサンヘイによる制裁です。

同期の兵1人が何か失敗をすると連帯責任になります。失敗した兵1人が罰せられれば良いのに、同期兵が向かい合って並ばされ、お互いにビンタし合うのですね。ちょっとでも手加減テカゲンをしようものなら、「バカやろう!こうやってやるんだ」って上官が怒鳴り、上官が全員をなぐるのです。

また、軍人精神注入棒グンジンセイシンチュウニュウボウというもので何かあるとすぐ上官から「を食いしばれ!」って殴られたといいます。元乗組員さんのお話によるとそうした制裁セイサイは毎日の日課だったそうです。映画「男たちの大和」にもその描写ビョウシャが出てきます。一方で、大和にもいくつかの部署とか持ち場があって、部署とか持ち場によっては、あまり制裁がなかったという話も聞きます。

大和の語り部をされていた八杉康夫さんは測距儀ソッキョギに配属されたのですが、八杉さんは一度だけビンタを食らったくらいで殴られることはなかったそうです。だから、他の部署の同年兵から「お前のところはええなあ、殴られんから」って言われたほど。何しろ「あいつらの頭を殴って、バカにしてしまったら、大和の心臓部シンゾウブがやられてしまうから」と。測距儀の部員たちは、大事な測距儀を扱う部署ですから。この測距儀を使い、敵の標的を計算し、そのデータを主砲にいき、そのデータをもとに 主砲射撃指揮所 シュホウシャゲキシキジョの射手が引き金を引くのですから。測距儀を扱う人がおかしくなったら、まともに弾を打つことができません。

さて制裁についてですが、これも賛否両論でして。まずは肯定的コウテイテキな意見から。近年の若者がたるんでいるから体罰タイバツで鍛えるべきだという意見もささやかれております。大和の乗組員にも制裁で強くなったという意見があります。


「民間人から兵隊になったんでしょう。そやけ民間人を兵隊に変えないいけんね。そりゃやっぱり軍人精神棒でたたかんと兵隊にならんとですよね。『ああ重いか』『ああ、きついか』とかなんとか甘やかしとったら仕事にならんですからね。叩くことでだんだん一人前になってくるんですな。叩かれたらシャンとせにゃいけん、また叩かれりゃシャンとせにゃいけん、気をつけてやらにゃいけんということになりましょう?」
『戦艦大和 乗組員たちの見つめた生と死』(NHK取材班 P64より)



ただ、大和の元乗組員にインタビューをしたところ、厳しい訓練で強くなったという意見よりも、行きすぎ体罰に否定的な意見の方が多かったようです。「ツラい経験しかない」とか、「俺が大きくなったら仕返してやる」と恨みの気持ちを持つ人もいます。



「正当な理由でね、殴られるのならいいけど、殴られる意味がわからないんだよなあ。結局、上官の感情の、気分で殴る。気分が悪かったら総員整列って号令かけるんだよ。それで整列したらケツベタぶん殴る」
『戦艦大和 乗組員たちの見つめた生と死』(NHK取材班 P66より)


三宅教班長はいつも「殴ってアメリカに勝てるんなら殴る。そんなことはない。賢いお前たちは口で言えば判るはずだ」と言っていました。(略)私は、教育として必要な時には、相手が男なら叩くのも時にはいいと思います。「今殴ってやらなくては永遠にわからない」、と冷静に判断したならですが。三宅さんは「自分が冷静な時だけ殴れ」と言っていました。「自分がかっとなって殴っては意味がない」と。でも、ほとんどの場合は、かっとなって殴るだけでしょう。
『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』(八杉康夫著 P22より)


実際、しごきが嫌で逃げたり、大和の艦体から海に身を投げて自殺したものもいる。それでも逃げる人が少数だったのは、脱走したら銃殺ジュウサツされるから。しかも本人だけでなく、親や親族までも村八分ムラハチブにあう。国賊と見られる。最悪、「はだしのゲン」に出てくる鮫島伝次郎みたいなやつにめっちゃいじめられる。そうなると親や親族は生きていけませんね。だからこそ、乗組員たちは家族のために、辛くてもガマンしたのでしょう・・・

志願兵の間では、こんな歌が歌われたとか。

菊花輝く軍艦は、艦底カンテイ一枚下地獄ジゴク、艦底一枚上地獄。どっちもみじめな生き地獄。そんなこととは、つゆ知らず、志願したのが運の尽き。ビンタバッタの雨が降る。天皇陛下テンノウヘイカに見せたいな。」



* 参考にしたもの
徹底図解 戦艦大和のしくみ (徹底図解シリーズ)
市ヶ谷ハジメ
新星出版社
2012-07-19














また、この記事は、BS・TBSの「THE 歴史列伝」やNHK のDVD「巨大戦艦 大和 〜乗組員たちが見つめた生と死〜」を参考にして書きました。