選挙が近くなり、選挙カーをあちこち見かけるようになりました。日頃から熱心に駅前で演説をしている議員さんも、普段は演説やらない議員さんも、どちらも頑張っています。僕が見たところ、普段演説をやらない人ほど一生懸命頑張っている感じがするw、そりゃ「“あの人は選挙の時だけお願いします“だから」なんて思われたくないから。いい方は悪いが、選挙は議員さんの就活みたいなものですからね。

さて、世襲議員はとりわけ悪く言われます。苦労を知らないからだとか、無能だとか、ひ弱だとか、庶民の気持ちがわからないとか。戦後まもない頃の議員さんは生粋の叩き上げが多く、そうした人たちが日本を立て直したと言っても過言ではありません。昔の議員さんは本当に迫力というか威厳がありました。田中角栄元総理にせよ、岸信介元総理にせよ、後藤田正晴さんにせよ、すごかった。国会議員どころか市議クラスですら、威厳というか、古武士のような風格が感じられる人が多かった。また苦労をしているせいか人の気持ちがわかる面もあった。実は僕の親戚にも市議さんがいたのですが、気さくでいい感じの人でした。でも、人生の甘いも酸いも知っている苦労人で人の気持ちがわかる人でした。

野中広務さんも、ネットとかでメッチャ叩かれているが、よくも悪くも迫力を感じる人でした。また苦労人だけあって、弱者にも目を向けている面もあった。野中さんの著作もよませてもらいました。彼はネットでは売国奴と叩かれているけれど、日本のことを彼なりに一生懸命考えていたんだなって思いましたよ。議員を引退してから、野中さんは、地元を散歩することを日課としていたそうです。そして公園のホームレスと会話していたのだそうです。ある日、あるホームレスに説教をした後、ホームレスにポケットマネーを渡したと言います。「その日から公園にきていない。やっと故郷に帰ったんだろう」と、自分のことのように喜んだとか。

さて、世襲議員についてですが、これは一概に悪いとは僕は思いません。元自民党の大物議員だった古賀誠さんは「親に勝る政治家もいる」と言ったほど。歴史上、藤原不比等、武田信玄、織田信長、北条氏康etc、江戸時代の徳川家光はもちろん、徳川吉宗だって世襲と言えば世襲。さらに大正や昭和に活躍した牧野伸顕は大久保利通の子。牧野の娘の夫が吉田茂。吉田茂も世襲議員みたいなものですね。世襲が悪いわけじゃないです。

ただ、古賀誠さんは世襲議員を一概に悪いとは思わないが、近年の世襲議員は「故郷をもっていない」とおっしゃっております。「世襲議員というのは、大体、都会の生まれ(とりわけ東京生まれ)が多く、郷土の土とか、郷土の風を知らない、おじいちゃんや父ちゃんの地盤があって、本人はそこの土と水で育っていない」と古賀さんおっしゃるのです。例えば、公共事業って何かと叩かれるけれど、あれも地方を活性化させる一環なのですね。河川を整備しなければ、増水や氾濫で災害に遭う。道路もなければ救急車も間に合わない。まさに命に関わる問題ですよね。僕も日本の各地をちょくちょく旅行に行くけれど、荒れ果てた田畑や地方のシャッター街とか見るたびに、地元の政治家は何やっているんだって思いますもの。

実際、世襲議員の評判は地元では良くないんですよ。タクシーの運ちゃんとか地元の人に、その世襲議員の名前を出したら急に不機嫌になったっけ。「地元に帰るのは選挙くらいで何もしない」とか「親父は立派だが、子供はダメだね」って。世襲議員が全て悪いとは言えないが、古賀さんの指摘は間違っていないかもしれない。李登輝元総統も同じこと言ってたなあ。「日本の政治家は東京しか見ていない」って。つまり、東京の生まれのためにどうしても東京を視点にして日本を見るところがあると。東京がどんどん発展する一方で他の都市や地方が疲弊していく。そんな状況が続いているのです。


※1『安倍三代』(青木理著 P174)

*参考文献及び参考サイト

安倍三代 (朝日文庫)
青木 理
朝日新聞出版
2019-04-05



https://diamond.jp/articles/-/249108?page=4