1 おんな太閤記
 橋田壽賀子さんは昨年の4月4日にお亡くなりになられました。早いもんですね。もうすぐ一年たつのですね。橋田壽賀子さんは、「おしん」や「渡る世間は鬼ばかり」をはじめ数多くのドラマ脚本を書かれました。特に「おしん」が叩き出した62・9という視聴率はいまだに破られていない記録です。しかも、近年NHK・BSプレミアムで「おしん」を再放送したら、リアルでは知らない若い世代にも支持されました。Twitterには「おしんチャレンジ」のタグがつき、トレンドに何度も入ったとか。良いドラマというのはいつの時代にも支持されるのだなって。

NHKの博物館で、橋田壽賀子さん直筆の脚本も展示されていたのですが、びっくりするくらい達筆。綺麗な字でした。橋田さんのドラマの特徴といえば、セリフの長さ。セリフを覚えるのが大変で、俳優さんたちは苦労しますが、見ている方にとっては、ストーリーがわかりやすいのですね。あと、橋田さんのドラマのナレーターのセリフに「〜であった。が、〜」という具合に「。が、」という言い回しがよく出てきます。これも橋田ドラマならではの言い回しです。橋田さんのドラマのナレーターといえば奈良岡朋子さんを僕は連想しますが、「おんな太閤記」ではNHKの山田誠浩アナウンサーがナレーターをされていました。

さて、今年の4月3日に橋田壽賀子さん脚本の「おんな太閤記」がNHK・BSプレミアムにて再放送されます。「おんな太閤記」は、1981年(昭和56)に放送されましたが、主演の、ねね役を佐久間良子さん、豊臣秀吉役を西田敏行さんが演じられました。僕は豊臣秀吉といえば竹中直人さんをすぐ連想してしまうしw、西田さんといえば浜崎伝助もそうですが、西郷隆盛のイメージがあるので。西田さんは、あんまり秀吉のイメージがないのですが、いざドラマを見てみると結構、西田さんは秀吉役も合うなって。ねね役を演じれた佐久間良子さんは淑やかなイメージがありますが、実生活では「ひょうきん」な性格だそうです。その佐久間さんに人柄のよい西田と「コンビを組んだら面白い」という点でNHK側がキャスティングしたそうです。実際、お二人はとても息がピッタリで、本当の夫婦のようでした。

「おんな太閤記」には泉ピン子さんや赤木春恵さん、中村雅俊さん、ガッツ石松さんetc「おしん」にもご出演されている方々も結構多いのですね。おそらく「おんな太閤記」の成功が、「おしん」にもつながったのかなって。「おんな太閤記」も平均視聴率31.8%で、最高視聴率36.8%を記録したといいますからね。戦国ファンの男性のみならず、主婦層の支持も得たことが大きかったようです。西田さん演じる秀吉が、ねねのことを「おかか」って言っていましたが、この「おかか」はこの年の流行語にもなりました。

大河ドラマの戦国ものと言ったら、合戦のシーンがつきものですが、「おんな太閤記」には合戦のシーンよりも家庭の場面が多く、いわば戦国ホームドラマのような感じなんですね。普通なら単調でつまらない話になりそうですが、それでも面白いと思わせるのは橋田さんの脚本の力と、出演者の演技力だと思います。

「おんな太閤記」を企画したプロデューサーは「おんな、子供でも平和に暮らせる社会を作りたい」と反戦をテーマに打ち出したのです。そして脚本を書いた橋田さんもプロデューサーに共感したそうです。橋田さんは戦争を体験しているので、戦争の辛さをよく知っているのですね。反戦のテーマは1989年(平成元)の「春日局」でも貫かれております。

2 いのち
 橋田さんが大河ドラマの脚本を再び書いたのは1986年(昭和61)。題は「いのち」。三田佳子さん演じる女医が主人公で、青森(弘前)と東京を舞台に戦後の日本を描いた作品です。 この作品だけでなくNHKは大河で現代ものを取り扱っていた時期があったのですね(※1)。1984年(昭和59年)の「山河燃ゆ」、1985年(昭和60年)の「春の波濤」。どちらも低視聴率でした。ヒットメーカーの橋田さんに白羽の矢が立ったのでしょう。はじめNHKは司馬遼太郎原作の明治ものに橋田さんが脚色をしてほしいと依頼したのです。それを橋田さんは難色を示したのですね。で、橋田さんがオリジナル作品を書きたいということで、この作品が生まれたのです。「いのち」は長い大河ドラマの歴史の中で、最も新しい時代を取り扱っております(2022年1月現在)。大河としては異色の作品ですが、視聴率も平均視聴率は29.3%、最高視聴率は36.7%と上々でした。

さて、現代物って本当に難しいのですね。事実、「山河燃ゆ」は、ドラマのモデルと思われる人物の家族からクレームが来たそうです。戦国時代とか幕末だとかだったら、その時代を知らない人の方が圧倒的に多いから、多少はごまかしが効くんですよね。ところが現代を舞台にすると、自分らの生きている時代だけに各方面からクレームが来やすいのですね。ましてやNHKは影響力が大きいから。


「いのち」に出てくる人物は全て架空の人物で、実在の人物の名前が出たのはナレーションや登場人物の台詞でもマッカーサー、池田勇人(内閣総理大臣)などごくわずかです。登場人物を全て架空にしたのは、クレームを恐れたのかも。

しかし、農地改革とこれに伴う地主の没落、高度経済成長下の農村、集団就職、オイルショック、核家族化など昭和20-50年代の社会的事象や事件は多数描かれており、戦後の歴史を学ぶにはいいドラマです。

「いのち」には「おしん」にも登場した俳優さんが結構ご出演されております。泉ピン子さん、小林綾子さん、赤木春恵さんetc。あと「おしん」とは関係ないけれど、吉幾三さんもこのドラマにご出演され、この年の紅白にも初出場されました。吉さんは青森のご出身でした。

また、「いのち」は高視聴率で、地元青森でも「いのち」というお菓子が作られたほど。番組が終わって30年以上経ちますが、今でも「いのち」というお菓子はあります。僕も食べたことがありますが、りんごの味がして結構美味しいです。

女医さんが主人公なので、コロナ禍の今だからこそ再放送の意義があると思うのですよ。本当は「おんな太閤記」より「いのち」の再放送やってほしかったな・・・また、「いのち」のOPの曲も素晴らしいのですね。個人的に大河のテーマ曲で一番好きです。作曲は坂田晃一さん。実は坂田さんは「おしん」、「おんな太閤記」、それから「春日局」の音楽を担当されているのですが、僕はやっぱり「いのち」かな。旋律がきれいなんですよ。

3 春日局
 平成最初の大河が「春日局」でした。1989年(平成元)放送です。三代将軍・徳川家光の乳母である春日局にスポットを当てた作品です。家光は有名ですが、春日局は、それほど知られた存在ではなかったのです。それが、このドラマを通じて広く知られるようになり、このドラマから「お局様」という言葉も生まれました。それくらい影響力があったのですね。また、春日局を“強い女”“烈女”のイメージではなく、平和な世を希求し家光・徳川家を支え献身的に生きた女性として描いたのもこの作品の特徴です。

春日局の本名は斉藤福(おふく)で、おふくが明智家臣の娘であることから本能寺の変と山崎の戦いは明智側の立場で、夫稲葉正成が小早川秀秋家臣となったことから関ヶ原の戦いは小早川側の立場で、というように他の作品とは違った視点で描かれているのも特徴のひとつです。

あと家光が紫という吉原の遊女におぼれ、お忍びで吉原に通ったなんてオリジナルストーリーも印象に残っております。紫という女性は徳川に改易された宇喜多家の関係者という設定になっております。もちろん、こんな話はフィクションで、滅亡したとはいえ、大名の娘が遊郭に売られるなんて話はないそうです。物語としては面白いですが。

昭和天皇崩御による放送延期、番組放送中に出演者が亡くなるといったアクシデントが重なるスタートとなったが、平均視聴率は大河ドラマの歴代3位の32.4%、最高視聴率は39.4%を記録しました。

春日局を演じられたのは大原麗子さん。他、長山藍子さんや藤岡琢也さん、中田嘉子さん、東てる美さんといった橋田ファミリー、それから江口洋介さんとか中村雅俊さん、丹波哲郎さん、香川照之さんと豪華な顔ぶれです。あとバイクの事故でお亡くなりになられた高橋良明さんも、ご出演されていたのですね・・・とても爽やかな感じのする人で、人気もすごかった。高橋さんがご出演された「オヨビでない奴!」とか面白かったなあ。『春日局』の「総集編」放送では、高橋さんの出演シーンの全てがカットされているのですね。無免許でバイクを運転したことが原因だとか・・・いづれにせよ、惜しい人を失ったなあって。


※1 現代ものといえば、2019年(平成31/令和元)にも「いだてん」をやっていました。宮藤官九郎さん脚本で、オリンピックがテーマ。視聴率は低迷していましたが、評判は良かった模様。